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「あなたのかかり(あり方)が自分と周りを幸せに出来るよ」 |
簡単な質問にもはにかんでうつむいて絞り出すように答えます。
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授業中に「谷ちゃん」と突然指名してもその反応は同じでした。
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答えるのは苦手でも、何事にも真剣に取り組んでいました。
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ぼくは息子が通うスイミングスクールに定期的に泳ぎに行っていました。
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シャワーの水をひっかけあっているコーチがいました。
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見かけない方でしたので、新しい方が入ったんだ、くらいに思っていました。
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そんなあるとき、ぼくは水泳指導回数券というのを購入して、
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準備運動を終え、シャワーを浴びようとすると、せんせい、と声をかけられました。
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そう言われて、最初は誰なのか分からなかったのですが、
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大学まで泳いでいて、こちらの系列のスイミングスクールに就職し、
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念願だったジュニアオリンピックにも出場していたそうです。
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一度記憶の糸がほどけると、あとはずるずると思い出されるもので、
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レッスンが始まりました。インストラクターはもちろん、谷山君です。
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列になり、谷ちゃんの提案するメニューを次々こなします。
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手を取ったり足を取ったりしてその方をサポートします。
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列を見渡すと、ぼくより年配の、そして常連らしい方ばかり。
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説明の度にそんな常連の方にいじられて右手を後頭部にあてて笑っています。
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わたしたち年寄りは別に速くなんて泳がなくって良いの。
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その評価になんだかぼくまでが褒められたような気分になりました。
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で、とにかく、ぼくに何か言うときに必ず「先生」っていう主語を入れるんです。
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でも、教え子に教えてもらえる幸福感を味わっていました。
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かつて同じように体育の授業で彼に泳いでもらったことを思い出しました。
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そして何より彼らしさを感じたのは、年配の生徒さんからいじられることです。
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それはあの小学校4年生の時と何一つ変わっていませんでした。
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もっというと「未成熟な自分」と思い込んでいる人はたくさんいます。
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そして、あの頃のままではいけない、と囚われています。
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社会や、他人が望む間違えのない正しい自分を作り上げようとします。
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スクールが終わって、フリースイムになると、谷ちゃんが話しかけてきました。
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「せんせいにほめられたくって※自学を一生懸命やりました」
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「ああ、ごめんね。当時は自学大賞とかつくっていて」
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谷ちゃんを担任した年からはじめた自学には「月刊大賞」みたいな賞がありました。
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谷ちゃんがはにかむだけでクラスが和やかになったこと。
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当時、言えなかった、言い切れなかった気持ちを言えて
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